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認知症とは、脳の神経ネットワークが障害され、今までできていたことが少しずつ難しくなり日常生活が困難になる病気のことで、単なるもの忘れとは異なります。一度獲得されて知的機能が、①後天的で、②脳の器質的障害によって、③全般的に低下し、④社会生活や日常生活に支障をきたす、ようになった状態と定義され、気分などの精神疾患や意識障害は除外されます。また、先天的障害である「精神遅滞」とも区別されます。
中核症状と行動・心理症状(BPSD:behavioral and psychological symptoms of dementia)に分けられます。
例として、アルツハイマー型認知症では、緩徐に認知機能(中核症状)が低下し、日常生活動作(ADL:activity daily living)に障害が出現すると、急激にBPSDが悪化することが多いです。このBPSDの増悪の時に、認知症が発症した考え初診する方が多いです。しかし、実際にはそのもっと前に発症していると考えられます。一方、レヴィー小体型認知症の早期に現れるうつ状態は、BPSDではなく、中核症状でもあります。
アルツハイマー型認知症、レヴィー小体型認知症、前頭側頭型認知症は、神経変性疾患と呼ばれ、脳の神経細胞数が徐々に脱落する病気です。
脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などが原因で起こる認知症は、血管性認知症と呼ばれ、高血圧、糖尿病、喫煙などをしっかり治療することで予防や進行の抑制が可能です。頭部外傷によって、頭蓋骨と脳の間に血液がたまる慢性硬膜下血腫や脳室が拡大して起こる正常圧水頭症は、脳神経外科手術によって治療が可能です。また、甲状腺の働きの低下によって起こる「甲状腺機能低下症」は甲状腺ホルモンの補充で、ビタミン欠乏症に起因する認知症はビタミンの補充で、てんかん性認知症は抗てんかん薬で改善します。
高齢者タウ沈着症という記憶障害や軽度の易怒性があり、アルツハイマー型認知症と紛らわしいほとんど進行しない良性の認知症もある。アルツハイマー型認知症と誤診され抗認知症薬服用で悪化していることがあります。
初診時に、治療しうる認知症として、慢性硬膜下血腫・正常圧水頭症、甲状腺機能低下症・ビタミン欠乏症・てんかん性認知症・うつ病性仮性認知症…などを適時診断と治療いたします。一方、根治できない神経変性性認知症であるアルツハイマー型認知症の場合には、ご本人とご家族の当事者の生活視点で、心理ケアを開始します。抗認知症薬を出して終わりにいたしません。
栄養障害(低タンパクや鉄欠乏およびビタミン欠乏)に対して栄養素療法、薬原性認知症(胃酸抑制薬や睡眠薬およびコレステロール低下薬)の治療適応をアドバイスします。それから、認知症は、本人と生活を共にする介護者が疲弊しては治療になりません。
コウノメソッドに準じて周辺症状である元気のない方対して漢方薬およびサプリメント(フェルガードなど)を興奮している方には家庭天秤法による介護者保護主義で適量の抗精神病薬(易怒性抑制薬)もご提案いたします。中核症状である記憶障害は実行機能障害に対して、少量の抗認知症薬(コリンエステラーゼ阻害薬・NMDA受容体拮抗薬)を投薬いたします。
意識の悪い(せん妄)ことで幻覚や日中に寝て過ごすような場合にはシチコリン注射を、また動作特に歩行が悪い場合にはグルタチオン点滴をお勧めいたします。
大脳白質に虚血が目立つ場合には、脳血管内皮保護および脳血管拡張作用により、脳血流増加作用の期待できるプレタールを少量併用いたします。
アパシー(不活発)には、ドパミン賦活作用のあるニセルゴリンを投薬いたします。
院内では非薬物療法として、音楽療法や、ご本人と介護者の心理ケアも行います。
認知症の疑いのある方は、認知症だったらどうしよう?と不安に感じ認識できます。しかし、すでに認知症早期の方は病識が低下していることが多く、ご自身は正常だ(正常のはずだ)と認識しています。そこで、ご本人に対して根ほり葉ほり質問し、病人扱いすることは、非常に苦痛です。何故正常な自分が、わざわざ病院まで連れて来られ、医療費を払ってまで検査を受ける必要はないと心から判断してしまいます。すると、次回以降の診療および治療拒否やご家族との関係が悪くなってしまいます。この認識のずれ(病識の低下)が、認知症のもの忘れと加齢によるもの忘れの差です。
したがって、当クリニックに受診の際には、病気の診断に来るのではなく、将来の脳卒中やもの忘れの健診のため行く、または、私が○○で受診する付き添いで、一緒に来てほしい、私もメタボの予防しているのと同じく、おじいさんおばあさんも不自由な老後とならないために、脳のバッテリーの治療をしよう!と伝えることが大切です。
また、初診では、ご本人の嫌がることはしない方法で診療を行います。その結果、来てよかったと感じてもらい、治療がしやすくいたします。ご本人が嫌がる内容を聞かなければならない場合には、ご本人とご家族とは、別室で診療を行います。
認知症の治療で最も重要なことは、ご本人とご家族(主に介護者)を生活共同体である当事者と一体とすることです。このように病気を中心にせず、当事者を主体した視点で、病気は治らないから駄目だということをやめ、経験として持っている特技や個性(残存機能)を生活に活かし、ご家族とともに豊かに人生を送ることが大切です。この前提として、当事者の心理ケアがあります。早期診断したものの、根治術がないと聞くと、絶望したり、認知症になると何もわからないと過剰なレッテル(偏見)とつけてしまうことがあるのです。ご家族の多くは、認知症を否定しがちです。ここで混乱を生じます。しかし、諦めとともに受容的見地で前進していけます。
認知症は不幸だと決めつけずに、忘れる力(老人力)がついて新鮮な気持ちで人生を歩めて良い(第二の青春が訪れる)、視点を変えれば、住み慣れた地域において馴染みの人間関係で幸せな人生も不可能ではありません。